vol.3 -せきらら-

東京・渋谷の「渋谷きんぼし」、学芸大学の「びゃく」などの繁盛居酒屋を次々と編み出しているマルホ株式会社。いずれの店も秋田野菜をメイン食材に用いたおばんざいを名物メニューに据えています。三軒茶屋の最新店「せきらら」の店長・藤野 廉さんに、野菜料理の価値向上のポイントや原価コントロールの工夫について聞きました。

取材協力店:せきらら
東京・渋谷、学芸大学という外食激戦区で繁盛居酒屋を連発するマルホの新店として、2025年7月に三軒茶屋の路地裏にオープン。「“あふれる野菜”を楽しむ大衆割烹」をコンセプトに掲げ、旬の秋田野菜を主役にしたおばんざいやあきたこまちの土鍋めしをフードメニューの柱として幅広い年齢層からの支持を獲得している。
店長:藤野廉さん
1999年2月、神奈川県川崎市生まれ。明星大学卒業後に車の営業職に就くが、「性に合わなかった」(藤野さん)ことから4カ月で退社。親友と独立することを目指して外食業界への転身を決意し、2021年10月にマルホに入社した。「酒場きんぼし」(現・渋谷きんぼし)や「びゃく」で修業した後、2025年7月、26歳で新店「せきらら」の立ち上げ店長に就任。

「せきらら」は“飾らない料理”で勝負

「渋谷きんぼし」「びゃく」「せきらら」の3店に共通する名物が、秋田野菜を使用したおばんざいメニューです。経営母体であるマルホの池上善史社長のご婦人の実家でもある、秋田県秋田市の老舗青果店「保坂青果」から仕入れる旬の秋田伝統野菜が商品力の要になっていますが、せきららが掲げるフードテーマが「飾らない料理」。
店長の藤野廉さんは「余計な食材、味付けを加えずに野菜本来の味わいで勝負すること」とその意味を説明し、さらに「これがけっこう難題なんです。“映える工夫”を封印しつつ、それでも目を惹く料理に仕上げるために試行錯誤を重ねています」と続けます。

野菜が主役の料理に仕上げるため、
肉と魚介は使用しない

せきららはおばんざいメニュー12品をラインアップしていますが、その商品開発には2つの前提条件が設定されています。「肉と魚介を使用しないこと」と「2種以上の野菜を組み合わせること」です。
肉と魚介を使用しないのは、「野菜が主役の料理」であることを際立たせるためで、「少量でも肉味噌や酒盗などが加わると後口が野菜の風味ではなくなってしまう」と言います。
一方、2種以上の野菜を組み合わせることには、商品力アップと原価コントロールという2つの目的があります。

左上から 鳥海なめこと小松菜の旨煮/メークインと実山椒 ポテトサラダ/庄内うるいとセロリ 煎り酒ジュレ/わらびとスナップエンドウ とんぶりマヨ/山内人参と菜の花 松前漬け/フルーツトマトの出汁漬け 酢味噌がけ

「2種の野菜の組合せ」で
価値向上と原価抑制を両立

一方、「秋田野菜のみで料理を完結させることができればいいのですが、それだと原材料費がどうしても嵩んでしまいます」と藤野さん。「秋田野菜に広く流通している食材を組み合わせることで料理の彩り、味わい、食感に変化を出しつつ、原価を抑えることにもつながります」
また、おばんざいはメニューの個性化を重視して同一の食材は使用しませんが、冷菜、温菜、土鍋めしの食材としても活用しています。
「おばんざいメニューで使用する食材を軸にして他のメニューを組み立てています。これによっておばんざいの仕込みが他のメニューの仕込みも兼ねるため、調理が効率化されるとともに食材を余すことなく使い切ることができます」(藤野さん)

産地と密に
コミュニケーションをとって
食材の特性を学ぶ

商品を開発するために藤野さんがなによりも重視しているのが「野菜をよく知ること」です。
「保坂青果の女将さんを僕らは“お母さん”と呼んでいますが、電話の発注時にはいつもお母さんを質問攻めにしています。
季節ごとに常に食材が入れ替わっており、いまだに初めて名前を聞く野菜もたびたびあります。食材としての特色やどんな調理に向くのかを詳しくたずね、それを商品開発に活かしています」(藤野さん)

そのわかりやすいメニュー事例が「三関セリと生姜つくね しゃぶしゃぶ」です。
三関セリの特色は30cm以上に長く伸びた根っこで、歯応えがあり、甘味と旨味が詰まっているため、地元ではきりたんぽ鍋の定番具材として用いられています。その食材特性をストレートに活かしたのが、しゃぶしゃぶというスタイルです。

季節感と個性を演出する
自家製ダレと調味料の
アクセント

せきららでは常時50種ほどの野菜を使用しており、おばんざいメニューに使用する野菜は25種を超えます。調理オペレーションにおいては、仕込みに手間をかけ、注文後の調理を盛りつけのみにできることがおばんざいの特色です。そこに料理のプラスアルファの価値を生むために工夫しているのがタレづくりです。

わらびとスナップエンドウ とんぶりマヨのマヨダレにプラスするのは秋田野菜のとんぶり。「マヨネーズの旨味と酸味に木の芽の香味が加わり、プチプチとした食感によって料理に変化が生まれます」と藤野さん。

また、焼き物の1品として用意している季節野菜のグリル焼きでは、春メニューの新玉ネギのグリルには蕗味噌を合わせますが、初夏メニューの赤茄子には桜エビのおろしダレ、冬メニューの下仁田ネギには鯛味噌を組み合わせ季節感と商品の個性化を図っています。

「野菜の個性を引き立てるため、ベースの味付けは控えめ。意識しているのが味のアクセントとしての役割で、そのうえで少量でも味わいに変化が生まれるマヨネーズは重宝する調味料です」(藤野さん)

少量多品種の注文ニーズに応える
おばんざい

三軒茶屋は東京都内でも有数の外食激戦区ですが、野菜メインのおばんざいはそうした街の特性にもマッチしています。「飲み歩きの文化が根付いている三軒茶屋は2軒目、3軒目ニーズが大きく、男女を問わず、おひとり客の軽い晩酌や食事の利用も少なくありません。おばんざいは少量多品種の注文にぴったりの料理ですから、そうした幅広い客層、利用動機に応えられるわけです」と藤野さん。
さらに「ファーストオーダーであふれる野菜6種盛りを注文されたお客さまが締めにふたたび3点盛りを頼まれることも珍しくありません」と続けます。それが客単価アップにつながっていますが、胃に負担をかけないヘルシーな野菜料理だからこその効果といえそうです。

『せきらら』
が教える野菜レシピ

キタアカリと実山椒
ポテトサラダ

材料(10人前)
※写真は2〜3人前の盛り付けです

  • キタアカリ 2pc(6~10個程度)
  • きゅうり 2本
  • 赤玉ねぎ 1玉
  • 塩、砂糖 少量
  • 実山椒 40g
  • キユーピー 業務用マヨネーズ 110g
  • 薄口しょうゆ 15ml
  • みりん 15ml

作り方

  • ①キタアカリはよく洗い、十字に切り込みを入れて30分ほど蒸す。
  • ②きゅうりと赤玉ねぎは薄くスライスし、塩揉みをしておく。
  • ③ジャガイモに火が入ったらボウルに移し皮を剥いて木べらで、ジャガイモの形を残して粗めに潰す。
  • ④熱いジャガイモに塩と砂糖で下味を入れる。(※ジャガイモの品種により分量は変更します)
  • ⑤粗熱が取れたらよく絞ったきゅうり、赤玉ねぎを入れ刻んだ実山椒を入れて混ぜる。
  • ⑥マヨネーズ、薄口しょうゆ、みりんを入れ味を見る。
  • ⑦仕上げにフライドオニオンで完成。

作り方

  • ①キタアカリはよく洗い、十字に切り込みを入れて30分ほど蒸す。
  • ②きゅうりと赤玉ねぎは薄くスライスし、塩揉みをしておく。
  • ③ジャガイモに火が入ったらボウルに移し皮を剥いて木べらで、ジャガイモの形を残して粗めに潰す。
  • ④熱いジャガイモに塩と砂糖で下味を入れる。(※ジャガイモの品種により分量は変更します)
  • ⑤粗熱が取れたらよく絞ったきゅうり、赤玉ねぎを入れ刻んだ実山椒を入れて混ぜる。
  • ⑥マヨネーズ、薄口しょうゆ、みりんを入れ味を見る。
  • ⑦仕上げにフライドオニオンで完成。

(ポイント)
ジャガイモはメークイン、キタアカリ、インカのめざめを時期によって使い分けています。蒸したジャガイモはほろっとした食感が残るように粗めにマッシュ。薄口しょうゆ、みりん、実山椒によって和テイストのポテトサラダに仕立てながら、少量のマヨネーズの酸味をプラスすることでジャガイモの甘味を引き立てています。

ズワイガニと春キャベツの
コールスロー

材料 (1~2人前)

作り方

  • ①ズワイガニは塩を入れたお湯で15分ほど茹でる。
  • ②春キャベツはすべて千切りにし、塩揉みをして水分をしっかり抜いておく。
  • ③蟹はすべてほぐし、よく水分を抜いた春キャベツとボウルで合わせる。
  • ④マヨネーズ、とんぶり、蟹味噌をすべて入れてざっくり混ぜる。
  • ⑤甲羅に全て合わせたものをのせ、最後に粒マスタードをのせて完成。

作り方

  • ①ズワイガニは塩を入れたお湯で15分ほど茹でる。
  • ②春キャベツはすべて千切りにし、塩揉みをして水分をしっかり抜いておく。
  • ③蟹はすべてほぐし、よく水分を抜いた春キャベツとボウルで合わせる。
  • ④マヨネーズ、とんぶり、蟹味噌をすべて入れてざっくり混ぜる。
  • ⑤甲羅に全て合わせたものをのせ、最後に粒マスタードをのせて完成。

(ポイント)
ズワイガニを贅沢に使用した一品。強めに塩をし、水気をしっかり絞った春キャベツの千切りを組み合わせることで食材の旨味を引き出しています。コクがありつつ、野菜の味を邪魔しないマヨネーズにカニ味噌を組み合わせ、そこにとんぶりを加えてプチプチとした食感のアクセントをプラスしています。

企画協力:株式会社柴田書店

2026/04/03時点