ランチルームの必要性|現代にあった食育を考える給食

農林水産省や文部科学省、厚生労働省など国の省庁が連携して「食育」を推進しています。
「食育」は全国民が対象となりますが、特に将来を担う子供たちへの取り組みが近年注目されています。特に学校給食の提供に合わせた「食育」は国だけではなく自治体を含めて取り組みが強化されているのです。

学校における「食育」の目的多様化

学校で提供されている給食は、当初は貧困家庭の子供たちに必要な栄養を摂ってもらうことを目的に開始されました。その後、経済発展により貧困家庭が減少したことを受けて、現在では家庭とは別に子供たちに「食育」を行う場として活用が進んでいます。

脂質の摂りすぎや野菜不足などの栄養の偏り、共働き世帯の増加に伴い朝食を食べない家庭の登場などがその背景にあります。これらにより、肥満/痩身などの問題を抱えた子供たちが増えるなどの問題が発生したことで「食育」への必要性が増しているのです。

また、核家族の比率増加や共働き世帯の増加などにより、家庭で食に関する教育などが十分に行えないケースも増え、それらを補完する形で教える「食育」も近年増えています。

さらに、自治体などで地域活性化を目指した取り組みを推進しているケースもあります。地元特産物を用いた給食の提供や生産者を招くことにより地元のことを子供たちに知ってもらう場を作るような取り組みです。

このように、昔の栄養不足を補うという給食が持つ役割は、子供たち個々が抱える問題の解決や家庭で教育しきれない食事周辺の取り組みにまで広がっているのです。

ランチルームを活用した「食育」

通常、給食はそれぞれの教室で食べることが一般的となっていますが、ランチルームを設置している学校も数多く見られます。設置数の関係から特定のイベント開催などに限定して活用している学校も多いですが、「食育」のための場として活用が進んできています。

ランチルームは学校の設備環境によってさまざまな形態になっていますが、概ね以下のような特徴を備えているランチルームが多いようです。

  • 1.調理室が見える
  • 2.交流がしやすい席配置
  • 3.イベントスペースがある

まず、調理室のそばにランチルームが設置されていることが多くなっています。これは実際の調理を行っている現場を子供たちに見てもらうこと、栄養士や調理師の方と交流を持つ機会を作ることなどが目的です。学校に給食室を設置している自校方式を採用している学校はもちろんのこと、共同調理場方式や外部委託方式を採用している学校でも簡易的な調理設備を設置して調理を行う場面を見せることがあるようです。

また、教室で給食を食べる際も机を合わせることが多いですが、ランチルームでは多くの人と話ができるような席配置がなされています。円卓を利用して一席に座る人数を増やすといった工夫をしているランチルームも見られます。ランチルームでの給食に関しては普段交流がない他の学年同士が席に着く、あるいは親や近隣住民などを招待して一緒に食事を摂るといったイベントを開催することもあります。そのため、より多くの人と話すことができる環境を作っているのです。

席配置と同様に、イベントスペースや発表ができるスペースを確保しているランチルームも多く見られます。空き教室を改良したランチルームの場合は黒板などをそのまま残していることもあります。この場は先生方、栄養士や調理師の方、地域住民の方などが話をする場所として活用され、子供たちへの「食育」を行うために必要な場となっています。

このように、普段の教室とは異なる場所で給食を食べ、人と話をするあるいは話を聞くことは子供たちにとって特別な空間と時間を与えることになるのです。

広がる「食育」の活用

「食育」の目的が広がっていることは先に述べましたが、目的を実現するための取り組みも多様になってきています。

給食を普段一緒に食べることがない他のクラス、他の学年の子供たちと一緒に食べることはもちろん、同じ誕生月の子供だけを集めて給食を食べるイベントなどもあります。また、苦手な食材があり、給食時間内に食べきれない子供が集まって一緒に食べることで個別に指導を行いながら好き嫌いを減らしていくといった取り組みを行っている学校もあります。

このように、普段交流がない子供たち同士が集まることで食事の楽しさを感じてもらう、全体指導で把握しきれない個別事情を考慮した指導を行う取り組みがなされています。

学校内だけの交流ではなく、親や地域住民などを招いたイベントなども「食育」の一環として行われています。親と一緒に給食を食べて栄養指導などを行うことで家庭の食事を見直してもらうきっかけを作ることができるかもしれません。

地域住民との交流では昔の食事に関する話を聞いたり、農家や漁師の人などから給食で使われている食材に関する話を聞いたり、子供たちの食に対する知見を増やしています。食事マナーを指導する外部講師を招いて子供たちにマナー教育を行うといったイベントを開催している学校も見られます。

このように、食に対して多様な情報や関連する人と交流する機会を持つことで子供たちに食事への興味を持ってもらう取り組みが進んできました。

それに加えて、自治体などが地元の活性化につなげるために「食育」に合わせて地域文化に触れる機会を設けるといった動きも出ています。給食を食べながら地域民謡の鑑賞や地域伝承/童謡などの朗読会を開くといった取り組みです。給食の場を通して地域文化に興味を持ってもらうことで、地元に根ざした生活を子供たちに将来行ってもらう布石になると考えられているようです。

「食育」は子供たちにとって食事に興味を持ってもらい、食に関連するさまざまな問題に対する必要な知見を提供するものです。そして、同時に食事の場を通して多くの人と交流をすることで普段では得られない経験をする時間にまで広がっています。自分たちの学校にとってどのような「食育」が必要なのか、地域全体で学校における「食育」を通して何を実現したいのかを考える必要が出てきている証なのかもしれません。


まとめ

「食育」は子供たちにとって食事への興味を持つことだけではなく、さまざまな経験や知見を得られる時間になってきています。そのため、給食を提供する栄養士や調理師の方々だけではなく、教師や親、地域住民など多くの人たちが当事者として関わってくる必要が出てきています。

学校や子供たち個別の状況によって求められている「食育」の内容に違いが出ている中で、「食育」の内容やそれに合わせたランチルームの作り方などを検討してみてはいかがでしょうか。

2017/11/06時点