単身顧客の目をどうスーパーへ向ける?
惣菜コーナーの本当の競合とは

「おひとりさま」という言葉に表れているように、単身顧客は多くの業界での「お得意様」です。ただ、食品流通業界にあっては24時間営業であることや惣菜の豊富さからコンビニエンスストアへ足を向ける方が多いようです。では、スーパーマーケットの惣菜コーナーで単身顧客をメインターゲットにする場合は、どのような戦略を立てる必要があるのでしょうか。

単身顧客はコンビニ志向?

忙しい日々の合間に自分へのご褒美として豪華な食事を楽しんだり、ひとりでバーへ入ってお酒を飲んだり。はたまた、旅行などで老後を自由に楽しむなど、いわゆる「おひとりさま」、単身顧客の消費拡大は年々顕著になっています。国立社会保障・人口問題研究所の発表によれば、今後は30~40歳の男女と60歳以上のシニア層が増加するとされています。この世代の「おひとりさま」は、消費意欲が旺盛で、商品・サービスの平均支払額もやや高めになる傾向があります。そのため、多くの業種が「おひとりさま」消費に注目しており、外食業界では「中食(なかしょく)」と呼ばれる、調理済の惣菜が対象とされています。

とくに、スーパーマーケットの惣菜売場の売上は年々伸びています。一般社団法人日本惣菜協会の「2016年惣菜白書」によれば、中食(惣菜)の成長率は10年間で122.2%増。業態別構成比では、総合・食品スーパーマーケットの売上で32.7%を占め、同様に中食を販売しているコンビニエンスストアを上回っています。

しかし、詳しく見ると、単身顧客の影響ではないことも見えてきます。外食・中食市場情報サービス会社のエヌピーディー・ジャパン株式会社が2014年に発表した「業態別 性別×未既婚比率」によれば、スーパーマーケットの惣菜売場の売上で割合が多いのは既婚女性。未婚男性と未婚女性を合計した比率とほぼ同じです。

スーパーの惣菜売場、真の競合は?

どのようにすれば、単身顧客はスーパーマーケットの惣菜売場により多く足を運ぶようになるのでしょうか。それは、単身顧客の選択志向に関係しています。
たとえばシニア層は、健康志向が他の世代に比べて強く見られます。農林水産省の「平成25年 食糧・農業・農水白書」で見ると、シニア層では茶飲料と野菜系飲料の購入額が高く、一人分の天ぷらや煮物など野菜系惣菜を購入する回数が多くなっています。ここから、野菜の摂取は増やしたいものの「食材を余らせてしまう」「調理が面倒」等の理由で、自分で調理する必要のある生鮮食品には手を出し難い傾向もうかがえます。
もし、スーパーマーケットの惣菜売場で集客数の伸びに悩んでいる状態でしたら、この「生鮮食品は量が多いから買いにくい」がヒントになるのではないでしょうか。
簡単に言えば、この逆をいくスーパーマーケットになればいいということが見えてきます。たとえばこのような単身顧客の傾向を踏まえて、惣菜の種類を増やしたり、自分で料理をしたい単身顧客も視野に入れて生鮮食品の販売単位を見直したりといった方法です。他にも加工食品の小容量化を行ったりと、単身顧客をターゲットにした戦略を打ち出してみてはいかがでしょうか。
このような戦略が取れれば、これまで売上が伸び悩んでいた店舗も単身顧客に選ばれる店になる可能性が十分にあるのです。惣菜売場で、家族数人分を想定した揚げ物や煮物などが多く売られていませんか。このうちの半分程度を1~2人分にして、「少量」と分かるようなPOPを付けて販売すれば、単身顧客も買いやすくなります。生鮮食品も、1個・1グラム単位で購入できるようにする、1人前分のカット野菜を用意する、などの方法で「食材を余らせる」という単身顧客の悩みを解決できるようにします。生鮮食品も「おひとりさま」分にすればいいのです。
また、同じ「おひとりさま」で「健康志向」でも、20~30代とシニア層では、求めるものが違います。たとえば20~30代向けにノンオイルドレッシングで食べる生野菜サラダを、シニア層向けには薄味の筑前煮を、というように。それぞれの嗜好と顕在的・潜在的ニーズをつかんで細やかに応える工夫が加味されれば、集客効果は更に高まるのではないでしょうか。

単身顧客の「冷蔵庫」「台所」となるために

あるスーパーは「家の近くにあって食材がいつでも豊富に揃う」という特性を表現するため「地域の冷蔵庫」というキャッチフレーズを用いて営業しています。しかし、ファミリー層と単身顧客では求めるものが違うため、スーパーマーケットが単身顧客の多い地域にありながら、惣菜売場へ「単身顧客が来ない」のであれば、実際は「(家族・世帯の多い)地域の冷蔵庫」になっていないか、改めて見直してみてはいかがでしょうか。


まとめ

スーパーマーケットの惣菜売場は、質の面では決して他の業態に負けていません。価格面でも、品揃えの面でも優位です。しかし、家族単位にした旧来の経営戦略のままでは、「健康的に見える惣菜を近くで必要な分だけ買いたい」単身顧客の需要には合致しません。せっかくの潜在顧客を逃がす可能性があります。
そのため、スーパーの惣菜売場を盛り上げるには、地域ごとに異なるお客様のニーズや傾向に加え、生活の多様性も考慮した潜在顧客へのアプローチも考えてみてはいかがでしょうか。

2017/04/27時点